エコタイプ次世代植物工場の特色10

エコタイプ次世代植物工場の特色10

 エコタイプ次世代植物工場は、従来の植物工場や露地栽培では実現不可能な多くの特色がある。その主な特色は以下の10項目である。
 日本では、お米や牛肉を除いて、農業生産する側は、食べる側の消費者のことをあまり考えずに野菜や農産物を生産するという傾向がある。野菜の露地栽培においては、その土地の土壌条件や気象条件などによって、栽培条件を選択する余地がなく、農産物を生産せざるをえないという事情もある。一方で、植物工場では、本来は多様な条件を選んで、消費者に喜んでもらえる野菜を生産できるのに、一番安易な方法でレタスなどを生産・販売している。そのため、従来の植物工場野菜は、ビタミン・ミネラルなどの栄養価は露地野菜と比べてもはるかに低く、逆に肥料成分の硝酸塩が非常に多く蓄積しており、健康被害が心配されるほどの野菜を平気で生産・販売している現状がある。
 それに対して、エコタイプ次世代植物工場での野菜生産は、消費者にとって、栄養価が高く、かつ極めておいしい、という大きな特徴がある。この特徴は、生の野菜を食べる際に多くの消費者に喜んでもらえるだけでなく、抗酸化成分や葉酸、亜鉛、薬用ニンジンなど、健康機能に注目した新たな商品群の開発につながる見込みである。既存の野菜ジュースや青汁などは、製造過程で加熱処理をするので、肝心な抗酸化成分や葉酸は酸化分解され、製品にはほとんど残存していない。すなわち、エコタイプ次世代植物工場で生産する野菜が有する健康維持、疾病予防作用をもつ各種成分を凍結乾燥によってそのまま製品化し、食から医療への貢献をめざす新しい健康商品群・産業分野が開けてくる可能性である。今後は、エコタイプ次世代植物工場で生産される野菜を原料として、健康食品・医薬品が商品化される見込みである。また、地球温暖化が進行する中で、持続可能で、環境と調和できる新しい農業の姿が開けてくる、と展望できる。ご期待願いたい。

(1)抗酸化成分を大幅に増強した野菜生産

 抗酸化成分は、身体の中で発生する活性酸素を消去する機能をもち、野菜の重要な栄養素である。エコタイプ次世代植物工場では、収穫前処理によって、抗酸化成分の総量(ORAC値)を10〜20倍に増強できる。露地栽培では、冬期栽培で夏期よりも2割程度増やせるのみである。従来の植物工場では、露地栽培よりも抗酸化成分含量は低い。抗酸化成分は、がんの予防効果が期待されている(コラム2021.12.6「がん予防には抗酸化成分の多い野菜(e-スーパー健康野菜)を!」;ブログ2020.10.26「がんの予防について」;ブログ2022.5.30 「野生動物にがんが少ないのはなぜか?」;ブログ2023.10.2「抗酸化成分がガンの予防になることを示す直接の証拠」;ブログ2023.10.11「発がん要因の因果関係」参照)。

(2)葉酸を大幅に増強した野菜生産

 葉酸は、細胞分裂時に必須であり、妊婦・授乳時の母親にはより多くの葉酸が必要とされる。また成人でも、血液細胞、免疫細胞、皮膚や味覚の細胞など、数日〜10日ごとに分裂しており、葉酸が必要である。さらに、肝臓のアミノ酸代謝で生成するホモシステインをメチオニンに転換する際にも葉酸が必要である。ホモシステインは、血管を傷つけ、脳梗塞・心筋梗塞・アルツハイマー病の原因となる。エコタイプ次世代植物工場では、野菜の葉酸を数倍〜10数倍に増強でき、これは露地栽培では実現不可能な技術である。従来の植物工場野菜では、露地栽培よりも葉酸含量は低い。妊婦・出産女性にはサプリメントの葉酸が推奨されてきたが、サプリメント葉酸は体内で二段階の還元を受けて活性型の葉酸に変換されるが、その変換を触媒する酵素遺伝子に変異のあることが判明しており、変異型の人(アメリカ人の17%)は変換活性が弱い。また体内での葉酸の再生に関わる酵素遺伝子にも変異があり、日本女性の2 /3 は酵素活性が弱く、体内の活性型葉酸レベルが低下していることが明らかになっている。野菜には活性型葉酸しか含まれていず、やはり野菜から活性型葉酸を得るのが最もよいことになる(コラム2022.6.10「亜鉛と葉酸を豊富に含む「e-スーパー健康野菜」;コラム2023.10.23「サプリメントの葉酸ではなく」;ブログ2020.10.26「心臓病・脳卒中・アルツハイマーと葉酸」参照)。

(3)亜鉛を豊富に含む野菜生産

 亜鉛は、遺伝子の発現調節に関わっており、また多くの酵素活性に必要な、重要な栄養素である。特に、細胞分裂する組織で必要量が多い。しかし、日本人では亜鉛不足が指摘されており、その理由として、日本の土壌に亜鉛が少なく、その上、土壌中の亜鉛は肥料成分のリン酸と不溶性の塩を形成するので、作物はごく少量しか吸収できない。エコタイプ次世代植物工場では、養液にポリリン酸を使用することで、この問題を解決している。そのため、亜鉛を任意に増やすことが可能で、亜鉛を豊富に含む野菜生産が可能となっている。e-スーパー健康野菜 100 g中には、亜鉛サプリメントと同量の亜鉛が含まれている。亜鉛が豊富に含まれるために、葉酸含量が高く、またビタミンB群の含量も高くなる((コラム2022.6.10「亜鉛と葉酸を豊富に含む「e-スーパー健康野菜」参照)。

(4)食味・風味の優れた野菜生産

 エコタイプ次世代植物工場では、収穫前処理を行うので、残留硝酸塩を非常に低いレベルにまで下げている。そのため、野菜のエグ味がなくなり、野菜本来の食味・風味が味わえる。特に、シュンギクのおいしさは別格である。エコタイプ次世代植物工場で生産した野菜を、野菜嫌いの子供に食べてもらったところ、まるでお菓子でも食べるように、次から次へと口に運んでいた。また、料理のプロに食べてもらったところ、非常に高い評価が寄せられている。露地栽培の野菜や従来の植物工場野菜は、残留硝酸塩の濃度が高いので、生で食べるとエグく、ドレッシングなどを振りかけて、その味で食べる必要がある(2021.,2.12 コラム「日本の露地野菜は、なぜおいしさを競わないのか?」参照)。

(5)栽培期間の短縮技術

 マグネシウムは、クロロフィルの構成元素であり、また300種以上の酵素の活性発現に必要である。ところが、種子発芽期には、給水後の根の発育抑制を回避するために、養液を希釈して苗を育てることが伝統的に行われている。そのため、発芽期の根や成長点で細胞分裂に必要なマグネシウム濃度が不足して、苗の発育が遅れることが判明した。細胞分裂では、DNA Polymerase が活発に働くが、この酵素は活性中心に2個のマグネシウムが必要であり、そのため、養液中に比較的高濃度のマグネシウムが必要となる。この点を考慮して、発芽期にマグネシウム濃度を上げることにより、苗の成長が著しくよくなり、その苗を移植すると、すでに細胞分裂を終えた成長点の成長が速くなり、収穫時期の大幅な短縮が可能となった(コラム2022.2.3 「マグネシウムの発育促進作用について」参照)。

(6)抗がん成分イソチオシアネートの増強生産

 アブラナ科の野菜には、イソチオシアネートが含まれており、代表的なブロッコリーのスルフォラファンには、がん細胞の増殖抑制と転移抑制作用のあることが証明されている。カラシナに含まれるアリルイソチオシアネートにも抗がん作用のあることが報告されているが、この成分を大幅に増強できることが分かった。この方法は、露地栽培や従来の植物工場では実現できない。

(7)抗がん作用・抗炎症作用のあるハーブ成分の増強生産

 ハーブ類に含まれる香り成分には、抗がん作用、抗炎症作用のあることが報告されている。そのなかで、スペアミントの香り成分を増強できる技術が開発された。

(8)大幅な省電力による野菜生産

 植物工場の維持には電気代金の負担が大きく、特に近年では電気代金の高騰により、運営に支障を来すほどになっている。LED 照明をパルス照射する方法については、このコラム欄でもすでに解説しているが、現在では、電力を1/2〜1/3 にまで削減しても、ほぼ正常な発育が確保できる、小型で安価な装置が開発されている。今後は、すべての植物工場で、このパルス照明法が採用されるものと思う(コラム 2023.8.1「植物工場の電気代金を大幅に節約できるパルス照明法」参照)。

(9)薬用ニンジン(根菜類)の大量生産技術完成

 薬用ニンジンなどの根菜類をウレタンを支持材として使用することで、根菜類を通常の養液栽培する方法が開発された。特に薬用ニンジンは、連作障害が強く、また微生物による病気に弱いので露地栽培では農薬(殺菌剤)の使用が問題となっている。エコタイプ次世代植物工場の完全無農薬栽培は、薬用植物の栽培に適している(コラム 2021.2.12「薬用ニンジンの養液栽培について」参照)。

(10)水を完全循環再使用する植物工場

 エコタイプ次世代植物工場では、植物の蒸散により空気中に放出された水蒸気は、エアコンで水に戻され、その水を養液に再使用することで、水の完全循環再使用システムが完成している。原理的には、収穫物に含まれる水分を補給してやれば、無限に植物の栽培が可能となる。この事実は非常に重要である。なぜなら、現在の地球では温暖化の進行により、雨が降らず乾燥がすすむ地域が多く出現しており、それらの地域では、土に水を加えて農耕を行うという、従来の農業の形態が持続不可能となりつつあるからである。地下水を農業用水に使うことも、地下水の枯渇により、持続不可能になっている。およそ1万2千年前に始まったとされる人類の農耕が、持続できない事態となりつつある。過去100年間に、世界人口の増大に伴って水需要が増加したが、その8割強が農業用水であった。水を循環再使用するエコタイプ次世代植物工場は、乾燥地でも農業生産が可能になるので、従来の農耕に代わる新たな農業の方式として、今後大きく発展していくことが期待される。現在の日本農業では、農業従事者の高齢化が進行し、特に複雑で多様な農業技術が要求され、災害の影響を受けやすい野菜生産が危機に直面している。今後は、日本農業のうち野菜生産が、露地栽培からエコタイプ次世代植物工場へと順次移行していくと予想される(コラム2021.3.12「エコタイプ次世代植物工場は、乾燥地の主要な農業形態となる」参照)。