抗酸化成分がガンの予防になることを示す直接の証拠

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抗酸化成分がガンの予防になることを示す直接の証拠

がんの予防については、本ホームページのブログ欄(「がんの予防について」2020.10.26)ですでに述べた。今回は、その中で、体内で発生する活性酸素が遺伝子を変異させ、その変異を抗酸化成分であるビタミンCが防止できることに焦点を当てて説明する。
 下図は、DNAの塩基の一つであるデオキシグアニジン(2’-dG)に活性酸素が作用して、8−デオキシグアニジン(8-OH-dG)が生成することを示している。ここで、活性酸素は、O2- から生成した H2O2 が鉄イオン存在下で、ヒドロキシラジカル(HO・)が作用していることに注意。


 活性酸素は、通常の呼吸鎖においても発生するが、がんの原因になるのは、慢性炎症で発生する活性酸素である。活性酸素はO2- として生成するが、これは細胞内に大量に存在するSODという酵素で H2O2 に変換される。このH202 は細胞膜を容易に通過して、周りの細胞に拡散する。そこにFe2+ が存在すれば、非常に反応性の高いHO・になり、近くのDNAやタンパク質に結合して変化させるのである。上図についていえば、変異した8-OHdG は、DNA 修復系により切り出され、尿中に放出される。すなわち、尿中の8-OHdG の量を測定すれば、DNAがどれだけ活性酸素により変異を受けているのかが分かる。

 下図は、NHKBS「美と若さの新常識(2017.7.20)で放映された一部である。この番組では、舞台女優の椿鬼奴さんが、今朝まで飲んでいましたということで、疲れた表情で現れる。そこで、司会者が、おしっこを取ってきてください、ということで、その尿中の8OHdG量を測定すると、29.1 ng/mgCRE という値で、その測定を担当した東海大学の西崎教授が、これほど高い値はめったにない、と言って驚く。その後、ビタミンCの溶液(1,000 mg含有)を飲んでくださいと言って、1時間後に、もう一度尿中の8OHdG 量を測定すると、13.5 ng/mgCRE という値で、1時間の間に半減したことが示された。

 ここで重要なことは、比較的高濃度のビタミンC溶液を飲むことで、身体中にビタミンCが短時間に行き渡り、その結果、8OHdG量が半減したこと、すなわち、活性酸素によるDNAの変異が抑制されたこと、である。この事実から推定されることは、体内では絶えず活性酸素によりDNAが変異を受けており、その変異はビタミンCにより抑制されることである。また、通常の条件下では、それらの変異はDNA修復系により修復されていること、である。  本ホームページのブログ欄(「がんの予防について」2020.10.26)ですでに述べたように、がん化した細胞では、DNAの変異がゲノムあたり1万カ所も変異しており、それらが修復されていないことである。この原因は、慢性炎症では、活性酸素が大量に長期間発生し続けるために、修復系では変異は修復されずに残っているためであると解釈できる。がんができる場合には、その前兆として慢性炎症があることは、早くから医者達により指摘されている。
 ここで、紹介したのは、高濃度のビタミンCの効果であるが、日常的には、食事の野菜から得られる抗酸化成分のミックスが、体内で発生する活性酸素によるDNAの変異を抑制することは、容易に推測できる。それでは、ビタミンCなどのサプリメントでがんの予防ができるのか、という疑問がでてくる。この問題については、本ホームページのコラム欄(「野菜の効能をサプリメントで補えるか?」2022.6.21)で述べた。がん予防学会の前会長である前田浩氏は、サプリメントではなく野菜でのみがんが予防できる、と述べており、野菜スープの有効性を説明している。
 野生の動物にはがんが極めて少ないことが判明している(「野生の動物にがんが少ないのはなぜか?」ブログ 2022.5.30)。光合成では、光が当たると酸素が発生し、光のエネルギーが変化した電子が容易にその酸素に渡されるために、呼吸で発生する活性酸素だけでなく、光合成で多量に活性酸素が生成するのである。すなわち、植物は強光にさらされ、高濃度の酸素に囲まれているために、活性酸素が生成しやすいのである。そのため、植物は、光合成を行う必要から、活性酸素に常にさらされるため、進化の過程で、植物体内で多種多様な抗酸化成分の生合成系を発達させてきた。それらは、ビタミンC, E、カロチノイド、ポリフェノール、含硫化合物、各種還元物質などである。そして、動物は、その植物の生産する抗酸化成分を食物として得ることで、動物体内で発生する活性酸素に対処してきた。しかし、ヒトの祖先は、動物が得た抗酸化成分を加熱することで、肉食では動物体内に含まれる抗酸化成分の大部分を失う道を選んだ。抗酸化成分は、化学的には還元物質であり、酸化されやすく、特に高温では酸化反応が促進されるために、加熱すると容易に酸化失活するのである。約五千万年前には、ビタミンCの生合成能力も失った。そのため、本来であれば、植物(野菜)をもっと積極的に得なければならないのに、近年の食生活では野菜を食べない習慣が進行している。野生の動物にがんが極めて少ないのに、ヒトでは、特に日本人では、がんが多発しているのは、野菜を食べなくなったことが最大の理由である。日本人におけるがんの多発は、食文化の面からも、その原因について考察する必要がある。