2023/08/01
植物工場の電気代金を大幅に節約できるパルス照明法
電気代金の大幅な値上げが続いている。植物工場では、ランニングコストの約半分は電気代と言われている。
そのため、今後電気代が上がれば、それだけ植物工場の野菜生産には大きな負担となる。
パルス照明法については、このコラム欄で「パルス照明装置について」(2022.8.4)と題して説明したが、その後、電力を連続光の1/3 に下げても、連続照射の場合とほぼ同じ生育結果が得られたので、その結果について報告する。
今回の実験に用いたのは、レイトロン株式会社(京都府宇治市、TEL 050-3733-9511 URL:https://www.raytron-japan.co.jp/company-profile/代表取締役 高崎尚之)の開発したパルス発生装置である。
この装置は、パルスの時間を任意に設定できること、明暗の比率が自由に設定できることが特徴である。
例えば、1ミリ秒のパルスを明1に対して、暗1で照射することができる。
この場合、連続照射に比べて、消費電力は 1/2 になる。この状態でコマツナ、レタスを育ててみると、連続照射と比べて、発育はほとんど同じであった。
さらに、明1に対して暗2の割合でパルス照明すると、消費電力は 1/3 になる。
下図は、その結果であるが、移植後2週間目の成長を比べると、ほぼ同様に育っていることが分かる。
1/3 では図に示すように、生重量では、連続光の84%であった。
同じ実験をレタスで行うと、連続光に対して、電力1/3 区では78%であった。
厳密に同じ成長量を得るには、1/3 区では、さらに1〜2日栽培を延長する必要があるが、84〜78 %の成長量であれば、問題はない。
それよりも、消費電力が1/3 になることが、非常に大きいメリットである。
今後植物工場のランニングコストを下げる非常に有力な装置となることは間違いない。
電力を 1/3 にしてパルス照明した場合に、野菜によって、連続光区との成長量に差が出るのは、なぜなのか。
その理由は、前回も説明した通り、C, N、S の還元反応系の速度の違いによる。
C, N、S の還元反応系の速度が相対的に遅ければ、光化学系に待ち時間が発生して、パルス照明下での光合成量(成長量)が連続光下の光合成量に近くなる。
逆に、C, N、S の還元反応系の速度が速ければ、光化学系の待ち時間が少なくなり、パルス照明による光合成量は低下する。C, N、S の還元反応系の速度は、主に葉の外部からCO2 が拡散してくる速度に依存する。
一般的には、葉が薄く、外部からCO2 が入リやすい構造の葉では、C, N、S の還元反応系の速度は速くなる。
イネなどは葉が薄いので、外部から CO2 が入りやすく、C, N、S の還元反応系の速度も速く、光合成全体の速度も光強度が増すにつれて高くなる。
コマツナとレタスとを比較すると、レタスがややCO2 が入りやすい構造になっている。
ただし、この装置は、LED に通電する前に、交流を直流に変換しておき、直流電流をこの装置に通す必要がある。
交流電流をそのままLEDに通す方式のLEDでは、LED内で大きな山を下げて平均化する装置が入れられているので、この装置を導入しても、パルス状の光を発生させることができず、上記のような結果は得られない。
前回の解説でも説明したが、パルス照明の特徴は、強い光を植物に当てた後、C, N, S の還元反応系が進む際に、時間的待ち時間ができたときに、次の強い光が照射されるまでの時間が節約できることが原理である。
植物に照射される光が、パルスとならずに平均化された弱い光であれば、待ち時間は発生せず、結果として、単に光強度を下げた照射となり、光合成速度は遅くなる。
このレイトロン社の装置は、20個以上発注した際には、1個あたり約2万円ほどになるという。詳しくはレイトロン社に問い合わせてほしい。