日本の露地野菜は、なぜおいしさを競わないのか?

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 日本のお米や和牛などは、産地ごとに銘柄が競われてそれぞれブランド品として流通している。
消費者は、好みに応じて食生活を楽しむことができる。
ところが、野菜、特に葉野菜については、産地表示はあるものの、スーパーにならぶ葉野菜を、野菜本来のおいしさを基準に選ぶことはない。
野菜の生産体制が、野菜本来のおいしさを目指してはいないからである。
なぜなのか?

 日本の気象条件は、湿度が高く、また相対的に高温である。
このように高温多湿な気象条件では、微生物の繁殖が活発で、多様性も高い。
身の周りの至る所に微生物がいるのである。
私が学生の頃、植物病理学の先生がアメリカから帰国して言うには、向こうでは無菌操作に滅菌箱が要らない、実験室の机でオープンに菌を接種しても、雑菌が入ることはない、と驚いていた。
それだけ空気中に微生物がいないからである。
一方日本では、培地を1分間でもフタを空けれておけば、無数の微生物が混入する。
それだけ、空気中のゴミなどに微生物が付着しているのである。

 そのため、作物を栽培する土壌中には無数の微生物が生存している。
その土壌で葉野菜を栽培すると、感染力の強いカビ類による病気に罹りやすい。
それでは、農家が野菜を生産できないので、日本の葉野菜の品種改良が病気に強い品種に置き換わってきた経過がある。
野菜本来のおいしさの観点は、品種改良では無視されてきたのである。
その結果が美味しくない野菜が主流となり、消費者の野菜嫌いが進行したのである。

 それでは、現在の品種を使って、美味しい野菜に生産することは不可能であろうか?答えは「可能である」。
栽培条件、特に窒素施肥を制御すれば美 味しい葉野菜が生産できる。
スーパーで産地ごとの葉野菜について、残留硝酸塩濃度や抗酸化成分量(ORAC値)を測定すると、長 野県産の葉野菜の品質が高いことがわかる。
長野県は全般に寒冷であり、野菜の生産に適している(ブログ「有機栽培とは何か」参照;右の表はカゴメ調査(2018.8.27))。
また農家も窒素施肥には十分な注意を払っているものと思う。
長野県は野菜消費量が全国1であり、また長寿も日本1が続いている。
地元産の野菜が美味しいから、消費も多く、健康にもよいのであろう。
美味しい野菜を生産することが、野菜消費を喚起する最も効果の高い方策である。

 

 なお、米の品質も栽培時の窒素施肥に大きく影響される。
美味しい米は、寒冷な土壌で、特に登熟期の窒素施肥を制御することが必須である。
同じコシヒカリでも窒素施肥が制御されていない栽培では、全くおいしさが失われる。
窒素施肥が多いと、米の表面近くにプロラミンという水に溶けにくいタンパク質顆粒が蓄積するためである。
人の舌はプロラミンが少ない方が美味しく感じる。
美味しい日本酒は、このプロタミンの層を削りとって作られる。

 葉野菜の品質、おいしさを基準に、現在出回っている野菜の順番を付けると、最も品質が悪いのは、従来の植物工場野菜である。
残留硝酸塩濃度が高く、えぐ味もある。子どもが嫌うレベルである。

次いで、暖かい地方の露地野菜、長野県産のように寒冷な産地の露地野菜、という順序になる。
そして、最も品質が高く、誰もが野菜本来の味がすると賞賛するのが、「e-スーパー健康野菜」である。
e-スーパー健康野菜」は、大量に工業生産できるので、今後葉野菜の品質は「e-スーパー健康野菜」に置き換わっていくものと思われる。