薬用ニンジンの養液栽培について

 薬用ニンジンは、土壌で栽培すると連作障害が強く、約10年間は同じ土が使えない。
また、土壌微生物に感染しやすく、感染防止・拡大のため、殺菌剤などの農薬の使用が不可欠である。
輸入品にも重金属や農薬が検出されており、漢方薬や健康ドリンクへの使用が問題となっている。
さらに、薬用ニンジンは、収穫するまでに4~5年は要するので、その間の歩留まりが低下し、栽培農家の意欲をそぐ結果、日本では栽培そのものが停止しつつある。
このような状況は、完全無農薬栽培が可能な植物工場での栽培が適していることを示す。

 しかしながら、実際に栽培してみると、養液系の検討、具体的栽培方法などで、多くの課題が存在することが分かる。
これらの課題を解決し、薬用ニンジンを千本単位で大量に栽培する方法について検討した結果、現時点でベストと考えられる方法が確立できたので、その概要を説明する(具体的な栽培方法については、20213月特許申請した)。

 まず養液系であるが、薬用作物産地支援協議会・農水省の作成したガイドライン では、遮光とともに化学肥料の使用を禁じている。
そのため、通常の野菜の生産に使用する標準養液、例えば大塚A処方を低いEC濃度で栽培すると、養分不足で発育に生理障害が発生した。
ECを高めると耐塩性が低いので、生理障害を起こして枯死する。
これらの問題は、EC値を下げて耐塩性を回避しつつ、養液組成のバランスを確保すると、生育に良好な養液系が確立できた。
また、光強度であるが、薬用ニンジンは成長期に地上部の成長点が生長しないので、構造上光合成産物がすべて根に蓄積する構造であることが 分かる。
このような構造の植物では、光強度を上げることで成長を促進できるので、実際に薬用ニンジンの光合成特性を、クロロフィル蛍光分析装置(PAM)で測定してみると、200 μmol/m2/s までは光強度に比例して成長するが、250 μmol/m2/s 以上になると、急速に枯死することが判明した。
やはり、遮光が必要である。
以下の図は、2年生苗の生育状況を示す。

 次いで、栽培方法であるが、根菜類は全般に根の生長に多量の酸素を必要とするので、エアレーションの効果について検討した。
これまでの経験で、ジャガイモ、ダイコン、ニンジンなどの根菜類では、根を養液に浸したまま栽培するよりも、地下部を空気にさらした方が根の生長によいことが分かっている。
そこで、養液を抜いて十分な空気にさらす方法を取り入れると、養液に浸して栽培するよりも、根の生長が約60%増加することが判明した。

 このように、養液系の改良とエアレーションとを組み合わせることにより、千本単位でも約80%の割合で3年生にまで成長させることが可能となり、薬用ニンジンの養液栽培法は確立できたので、この方法を使って、薬用ニンジンの生産を具体的展開してほしい。
特許を使用するライセンス料は非常に低く抑えているので、ご希望の方は是非活用してほしい。