「低カリウム野菜」は「高ナトリウム野菜」!

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「低カリウム野菜」は「高ナトリウム野菜」!

「低カリウム野菜」が生産・販売されている。特に腎臓に疾患がある場合、カリウムの尿への排泄が十分に行われなくて、血中のカリウム濃度が高まると、神経細胞内のカリウム濃度との差がなくなり、心臓を動かす際に必要な電気信号の伝達が不十分になり、心臓が止まるなど、突然死を招くことがある。神経細胞の電気信号が正常に伝達されるためには、細胞内のカリウム濃度が高く、逆に細胞外のカリウム濃度は低く保たれる必要がある。そのため、腎臓の機能が低下すると、カリウムの摂取を制限する食事制限が必要となる。
カリウムは、葉野菜や果菜類などに多く含まれる(下記の表参照)ので、葉野菜や果菜類の摂取制限が課されることになる。しかし、葉野菜や果菜類は、通常の食事に欠かすことできない食品であるので、カリウムの少ない葉野菜や果菜類を生産できないか、ということで「低カリウム」を謳った野菜が生産されることになった。
露地栽培で「低カリウム野菜」を生産することは困難であるので、植物工場やハウスの水耕栽培で「低カリウム野菜」が生産されている。具体的には、葉野菜では、肥料の調整で、カリウム塩の代わりにナトリウム塩を使用する方法が一般的に採用されている。植物にとって、カリウムは必須元素であるが、植物にとって必須元素ではないナトリウムに一部置き換えても、ある程度は成長できる。果菜類では、生産の前半ではカリウムで育てて、果実が実る生育後期にカリウムを抜く方法が採用されることが多い。カリウムは植物体内を移動しやすい元素であるので、果実が大きくなる生育後期にカリウムを抜いても、すでに葉などに蓄積されているカリウムが転流して果実に運ばれる。それでも、生育後期にカリウムを抜くと、最終的に果実内に運ばれるカリウムは、通常の場合と比べて半分程度に低下する。それを「低カリウム果実」として出荷するのである。
ここで、カリウムを抜くと表現したが、実際には、カリウムの代わりにナトリムが使用されるので、「低カリウム野菜」は「高ナトリウム野菜」になる。肥料の成分は、必ずアニオン(マイナスイオン、硝酸イオンやリン酸イオンなど)とカチオン(プラスイオン、カリウムイオンやマグネシウムイオンなど)とが結合したの形の「塩」の形態で使用されるので、カリウムイオンを使用しない場合にはナトリウムイオンなどの同じ一価のカチオンを使用せざるを得ないのである。
問題は、腎臓疾患の患者に「低カリウム野菜」を提供する目的で「高ナトリウム野菜」を提供してよいのか、という点にある。腎臓の機能が落ちた患者には、厳しい食塩制限が課されている。食塩とはナトリウムの制限である。そのため腎臓の機能が落ちた患者に「低カリウム野菜」(=「高ナトリウム野菜」)を食べさせると、腎臓をさらに悪くする可能性がある。しかも、多くの病院関係者(医者、管理栄養士)および一般の人々は、「低カリウム野菜」が「高ナトリウム野菜」である事実を知らない。「低カリウム野菜」とは、単純にカリウムが少ない野菜のことだと理解している。「低カリウム野菜」はこのような無理解の隙をぬって販売されている。「低カリウム野菜」の生産業者も、カリウム含量のデータのみを示して、ナトリウム含量のデータは隠している。
カリウムは植物の生存および成長に必須の元素である。植物が光合成の働きで最初に生成するのは有機酸であり、糖が転流して果実などで代謝される際にも有機酸が生成する。有機酸はカルボキシル基(-COOH)が解離してアニオン(-COO-)になっており、それを電気的に中和するためにカリウムイオン(K+)が必要となる。また、細胞が伸長する際にも有機酸のカリウム塩が浸透圧を上げて吸水力を生み出し、細胞は伸長し、それが植物が生長する基礎過程となっている。さらに、気孔が開く際にも孔辺細胞内の有機酸の生成に対応してカリウムイオンが流入して孔辺細胞が吸水して気孔が開くなど、植物の生活の至る所でイオン調節を行っている。特に、カリウムによって酵素が活性化されることが、60あまりの酵素で確認されている。カリウムとナトリウムとは、イオンの大きさが異なるため、カリウムによって活性化される酵素がナトリウムに同程度に活性化されない場合もあると考えられ、カリウムをすべてナトリウムに置き換えると、植物は生育できない。したがって、カリウムをナトリムに置き換える栽培方法には問題がある。
植物工場は、野菜の生育条件を多様に制御できるので、野菜生産の可能性を大きく展開できる生産法であるが、「低カリウム野菜」は、上記の理由で間違った方向に走った生産方法である、と言える。社会の理解が進めば、やがて消える運命にある。
腎臓病の患者には、野菜をゆでて、それを搾ることにより、野菜の中に含まれていたカリウムなど水に溶けやすいミネラルなどは、約半分の含量に落ちるので、この方法が「低カリウム野菜」よりも安全である。
なお、腎臓の機能が正常の場合には、カリウムはナトリウムの尿中への排出の際に必須であり、ナトリウムはカリウムの取り込みと交換で排出されるので、日本人のように食塩(ナトリウム)を過剰に摂取している場合には、カリウムを積極的に摂取することが望ましい。特に、野菜はカリウムが多く含まれており、逆にナトリウムの含量は非常に低い(表参照)ので、食塩含量の高い工業製品の食品を多く摂っている場合には、野菜を多く摂ることが食塩(ナトリウム)の排出を促す上で大きな効果がある。腎臓が正常に機能している場合には、過剰なカリウムはすべて尿中に排泄されるので、問題は起きない。そのため、腎臓機能が悪くない人にとっては、「低カリウム野菜」は単純に栄養を損なう野菜といえる。