2022/08/04
ヤングリーフ栽培(多植栽培)の勧め
現在の植物工場では、苗を移植した後の光利用効率が非常に低い。LED の光は栽培棚全面に照射されるのに対して、その光を利用する苗の占める面積は移植直後は2〜5%のみであり、95% 以上の光は周りに散乱して植物には利用されない。この状況は苗の成長とともに徐々に改善されるが、基本的には移植後2週間ごろまで続く。栽培棚全面に葉が拡がるのは、栽培後期の3〜4週間になってからである。植物工場のランニングコストの中で電気代金の占める割合は非常に大きいので、この問題は放置できない。
この問題に対処する方策はいくつかあるが、ここではヤングリーフ栽培(多植栽培)法を紹介する。それは、播種の際に、通常はウレタン播種ベッドに1粒づつ蒔くが、2〜4粒づつ蒔くのである。そうすると、その苗を移植すると、通常法に比べて苗の葉の占める面積は2〜4倍に増加し、特に移植後1〜2週間の光の利用効率も2〜4倍に増加する。総光合成量(総成長量)も2〜4倍に増加する。栽培初期の総光合成量(総成長量)を2〜4倍に増加する方法は他にない。この光合成量の増加は、従来では捨てていた光を活用するので、画期的な方法である。
そして、栽培棚全面に葉が拡がる2週間目ぐらいに収獲するのである。通常の収獲よりも1〜2週間は早く、野菜の成長も1株あたり30〜40 g程度であるが、このように野菜を若く収穫するメリットは、野菜が柔らかく風味も豊富である点にある。いわゆるベビーリーフは芽生えを使用するのに対して、この方法で栽培する野菜を「ヤングリーフ」と呼ぶことにする。植物工場野菜の特徴は一般的には、露地栽培の野菜に比べて、柔らかいと言われるが、ヤングリーフはさらに非常に柔らかいのが特色である。現在多くの植物工場ではレタスが栽培されているが、レタスは水分含量が95%程度あり、基本的に柔らかい野菜であるので、柔らかい野菜の需要についてはあまり感じていない業者も多い。しかし、コマツナ、シュンギク、ホウレンソウなどをヤングリーフ法で育てると、柔らかい野菜の有利さに気づくはずである。
移植後2週間で収獲すると、栽培棚の利用効率も大きく改善できる。従来法では1株あたり80 g ぐらいまで育てるには約4週間要していたので、その方法に比べると半分の期間で栽培棚を回せるので、年間を通じて生産できる野菜の量は非常に多くなる。しかも、その生産量の増加分は、これまで捨てていた光を活用することで得られるもので、新たな経費を使うのではない。
発芽期にMg++ を増強して細胞分裂を促進することにより、発育を促進させ収穫時期も1〜2週間早める栽培技術については別項で紹介しているが、ヤングリーフ栽培法はこのMg++ による発育促進効果を有効に活かす栽培方法である。ヤングリーフ栽培においても、収穫前処理を施し抗酸化成分と食味・風味を増強する栽培法を採用でき、また、Zn++ を増強して活性型葉酸量を増強する栽培法を利用できるので、ヤングリーフは、抗酸化成分が豊富で食味・風味がよく、葉酸・ビタミン類・ミネラルが豊富で、しかも非常に柔らかい野菜なのである。
ヤングリーフ栽培法は、新しい植物工場野菜の創出である。現状の植物工場野菜は、露地野菜に比べて、天候に影響されず安定的に生産できることが強調されるが、その品質は、食味・風味・栄養価(抗酸化成分、葉酸・ビタミン類・ミネラル含量)において露地野菜に明確に劣る。露地野菜の生産は、生産農家の高齢化、跡継ぎ難、生産用具・肥料の高騰などで、将来が危ぶまれている中で、従来の植物工場野菜が露地野菜に代われるかといえば、その品質の低さを考えると、それでは日本人の健康を維持できないとの危惧を抱かざるを得ない。ヤングリーフは、従来の植物工場野菜に欠けている品質の高さがある。その上、移植後の光の効率を飛躍的に高めることができ、植物工場のランニングコストの大半を占める電気代金を大幅に節約できる、また栽培棚の回転効率も高く、全体として植物工場の効率を大幅に改善でき、現状では植物工場野菜を最も効率的に栽培できる方法といえる。