サプリメントの葉酸ではなく

サプリメントの葉酸ではなく、野菜に含まれる活性型葉酸が身体によい理由

 葉酸はビタミンB群(B9)に属する重要な栄養素である。生体内ではC1-ユニット(メチル基-CH3、メチレン基 >CH2)の転移反応に関与している。DNA、RNAの合成に必要な塩基(アデニン、グアニン、チミン)の生合成に必須であり、またアミノ酸のメチオニンの合成にも関与している。DNA合成は細胞分裂に必要であるから、特に妊娠・授乳期には摂取必要量が多くなる。

 葉酸という用語は化学合成品の名称であり、生体内にはテトラヒドロ葉酸という活性型で存在する。サプリメントに含まれる葉酸は化学合成品であり、体内で二段階の還元反応を受けて、活性型のテトラヒドロ葉酸に変換される。植物でも細胞分裂する際には活性型葉酸は必要であるが、細胞分裂以外に光呼吸という光合成の代謝に関与しているため、緑色の部分に多く含まれている。葉酸含量を調べると、緑色の野菜に多く含まれており(ほうれん草 210 μg/100 g生重)、肉や卵などの食品には含量が少ない(卵 9 μg、牛もも肉 2 μg)。肝臓(レバー)のみはアミノ酸の代謝を担う必要性から、食物から摂取した活性型葉酸を貯蔵しており、比較的多く含まれている(牛レバー 200 μg)。

 成人でも、体内では細胞分裂の盛んな組織は多い。血液の免疫細胞や皮膚の細胞、味覚細胞などは、数日〜2週間ほどの単位で細胞分裂を繰り返している。葉酸は、人体内では合成できないから、食物で得る必要がある。緑色の野菜を多く食べていれば問題はないが、野菜を多く食べない場合には葉酸不足になる。特に、妊婦・授乳期の女性には多くの葉酸が必要とされる。日本の基準では、貧血(赤血球不足)にならない目安として 240 μg/日を定めている(妊婦 480 μg/日)が、国際的には400 μg/日が推奨されている。葉酸摂取量調査によると、 229 μg/日(2010年、国民栄養調査)と、多くの国民が葉酸摂取不足の状態である。

 毎日必要な葉酸を野菜で摂取するとすれば、ほうれん草を毎日 150 g 程度食べなければならない。妊婦であれば ほうれん草 230 g 程度となる。そのため、特に妊娠時期には、サプリメントの葉酸の服用が勧められている。ところが、サプリメント葉酸には多くの問題があることが近年明らかになってきた。

 サプリメントに含まれる化学合成した葉酸は、体内で二段階の還元反応を受けて活性型葉酸に変換されることは、先に述べた。この反応を触媒する酵素を Dihydrofolate Reductase (DHFR)という。この酵素遺伝子に変異のあることが分かった。代表的な変異は、第一イントロンが欠失しているケースである(イントロンとは、遺伝子の配列の中でタンパク質に翻訳されないDNA部分)。この欠失型の変異(ホモ接合体)の割合が、アメリカでは人口の17% になるという。この変異をもつ人の場合、サプリメント葉酸を摂取しても、体内で活性型に変換されないために、乳がんや網膜芽細胞腫のリスクが高まることが報告されている。

 また、活性型テトラヒドロ葉酸が体内で再生される際に働く酵素を Methylenetetrahydrofolate reductase (MTHFR) というが、この酵素遺伝子にも遺伝子の欠損や多型のあることが明らかになった。この酵素を欠損している人は人口の5% とされ、さらに、遺伝子多型(遺伝子に塩基単位で変異がある場合)が存在し、日本女性の約 2/3 がこの遺伝子多型で酵素活性が弱いことが判明している。この酵素遺伝子に欠損がある場合、体内で活性型葉酸の再生ができず、血液中にホモシステイン(活性型葉酸があれば、ホモシステインは肝臓でメチオニンに変換される;ホモシステインは血管を傷つけ動脈硬化の原因になる)が蓄積し、若年性脳梗塞のリスクが高まる、とされている。また、この酵素遺伝子の多型がある場合は、酵素活性が弱いためにサプリメント葉酸を服用しても、活性型葉酸量が不足することになる。

 Dale E. Bredesen は、The End of Alzheimer’s (2017)の中で、アルツハイマー病は、従来言われてきた脳細胞にアミロイドβなどのタンパク質が蓄積することで引き起こされるのではなく、葉酸不足が原因で血管の炎症が起きることが根本原因であり、アミロイドβの蓄積は炎症に対する脳細胞の応答にすぎないことを、多くの症例を示して、明らかにしている。したがって、アルツハイマー病の治療には葉酸の投与が必須であることを強調している。その中で、テリ(65)という患者が、家族性アルツハイマー病の家系にあり、初期症状が出てきた時の血中ホモシステイン値は16μmol/L であった(正常値は 6 μmol/L)。そこで、サプリメント葉酸を投与したところ、12μmol/L にまでしか低下しなかったこと、そこで活性型のテトラヒドロ葉酸を投与したところ、ホモシステイン値は7にまで低下して、その後4年経過したがアルツハイマー病は進行せず、精神的も元気で活動的な状態を維持していることを報告している。このケースは、上記DHFRまたはMTHFR 遺伝子のいずれかが欠損または多型変異しているケースであると推定される。

 このように、従来、サプリメント葉酸さえ服用すれば、葉酸不足が回避されるとされてきたが、サプリメントの葉酸では多くの問題があることが明らかになってきた。やはり、野菜に含まれる活性型葉酸を摂取することが、身体には一番よいのである。それにしても、野菜に含まれる活性型葉酸量をもう少し増やすことはできないのか?この問いに対しては、このコラム欄(「亜鉛と葉酸を豊富に含むe-スーパー健康野菜」2022.6.10)でも述べた。養液中に亜鉛の濃度を高めて、葉酸の生合成を促進させる方法である。亜鉛と葉酸の含有量が高い野菜は、体内の葉酸代謝経路に亜鉛が必要な代謝経路が多くある点を見ても、身体によい野菜と言える。