有機栽培のエッセンスを取り入れた 「e-スーパー健康野菜」

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1 有機栽培のエッセンス

 前回、有機栽培がうまくいくケースは、比較的寒冷な地域で、土の中の有機物が徐々に分解する場合であることを話した。これを有機栽培のエッセンスと呼ぶ。有機栽培がうまくいくケースをどのように見分けたらいいのか。その一つの指標が野菜の葉に含まれる残留硝酸塩の濃度である。残留硝酸塩の濃度が高いとその有機栽培はうまくいっていないことになり、逆に残留硝酸塩の濃度が低ければ、有機栽培のメリットが出ている、とみなすことができる。私の経験から言えば、1,000 ppm がその境になると思う。

 

2 残留硝酸塩はなぜ高くなるのか?

 そもそも野菜の葉に硝酸塩が蓄積するのはなぜなのか。高校の生物で習う窒素代謝を思い出してほしい。窒素化合物は、空気中の酸素が行き渡る所では、最も酸化が進んだ硝酸イオンになる。植物の根は、その硝酸イオンを吸収したあと、蒸散流(根から葉に至る水の流れ)に乗って葉の細胞に入る。葉の細胞では光合成が行われており、その中で硝酸イオンは亜硝酸イオンになり、最終的にはアンモニアにまで還元される。アンモニアはアミノ酸に取り込まれて、タンパク質やDNR, RNAなどの有機窒素化合物になる。ここで、硝酸塩と呼ばずに硝酸イオンと呼ぶのは、硝酸還元反応では硝酸イオンとして反応するからである。塩とは硝酸イオンがカリウムイオンなどとくっついた状態をいう。

 その際に、光合成の能力以上の硝酸イオンが葉に運ばれてきた場合、液胞に取り込まれてそこで蓄積することになる。硝酸イオンのアンモニアへの還元は光合成の還元力(電子)が使われるから、光が強いほど硝酸イオンの還元は進み、逆に光が弱い場合には、硝酸イオンの還元はあまり進まず、葉に硝酸イオンが貯まることになる。太陽光の下でも、曇や雨の天候が続くと、硝酸イオンの蓄積量は多くなる。

 それでは、光さえ強くすれば硝酸イオンの蓄積は少なくなるかといえば、いくら光が強くても一定量の硝酸イオンは葉に蓄積する。なぜかといえば、夕方太陽が沈み光合成ができなくなったときに、蒸散量を左右する葉の気孔はまだ開いており、根から運ばれてきた硝酸イオンは、光合成が止まっているので、そのまま葉に蓄積することになる。気孔はゆっくりと閉じるので、光合成が止まっても蒸散はまだ続く時間差があるのである。朝になって太陽がのぼり光合成が始まっても、いちど液胞の中に入った硝酸イオンはすぐには細胞質に出てこないので、このような硝酸イオン(カリウムイオンも液胞に入るので、合わせて硝酸塩といってもよい)が蓄積していくことになる。

 ところで、有機栽培の野菜では硝酸塩の蓄積はどうかといえば、比較的寒冷な場所では有機物の分解が徐々にしか進行せず、根が吸収する硝酸イオンの量が少ないので、硝酸塩の蓄積は少なく、このような野菜はえぐ味がなく美味しい野菜となる。しかし、同じ有機栽培といっても、気温が高い地域では有機物の分解が速く進むので、根の周りには多くの硝酸塩が存在することになり、結果として硝酸塩が多く蓄積し、えぐ味の強い、あまりおいしくない野菜となる。

 有機栽培でも硝酸塩が多く蓄積する場合のあることは、畑から遠く離れた山道で化学肥料などの影響がない場所で、ヨモギの葉の硝酸塩濃度を測ってみると、根の周辺には有機物しかないのに、12,000 ppm もの硝酸塩が検出された(京都府南部、5月)。すなわち、化学肥料を施肥していなくても、有機物の分解が速く進行していれば、葉の硝酸塩の蓄積は多くなることが分かる。有機栽培だからおいしい野菜ができるとは限らないのである。

 

3 残留硝酸塩を下げる方法はある

 葉に蓄積した硝酸塩は、窒素を含まない養液で2~4日栽培し、その際に光を強くすれば、一定の速度で減少する。しかし、液胞に蓄積した硝酸塩は徐々にしか液胞から出ていかないので、多量の硝酸塩が蓄積していれば、急激に下げることは困難である。この方法は養液栽培では有効であるが、畑では土の中の硝酸塩をなくすることはできないので、畑作では適用できない。畑作では雨によって硝酸塩が土壌から失われるので、畑作の野菜の硝酸塩濃度を制御することは非常に難しい。おいしい野菜をつくる農家は、堆肥を多く使用して(すなわち有機農法の原理を使って)化学肥料の使用を最小限にすることでおいしい野菜を生産している。

 そうすると、野菜の成長過程で余分な窒素分を与えないことが重要となる。すなわち、それが有機栽培のエッセンスである。農業に従事している多くの人々は、研究者を含めて窒素を制限すれば野菜の成長が遅くなる、と信じており、それがおいしくない野菜を生産する一つの原因となっている。養液栽培で実験すると、通常の養液組成の窒素分を半分に減らしても、野菜の成長は変わらないことが分かる。

 

4 野菜の成長の律速因子は窒素か?

 野菜を栽培する農家も、また野菜の成長を研究する研究者も、長年の経験から野菜を速く成長させるには窒素肥料を十分に与えることだと信じている。しかし、野菜の成長過程を詳しく調べると、茎頂および根端での細胞分裂の速度が重要であり、次いで分裂した細胞が伸長する際に、光合成産物(アミノ酸、有機酸、タンパク質など)とカリウムイオンとが浸透圧を上げて水を吸収し、目に見える成長となるので、窒素以外にもカリウムイオンの量によって成長が支配される。問題は、窒素(硝酸塩)とカリウムイオンとどちらが量的に重要か、ということになる。

 光合成の速度は光飽和点に達するまでは光強度に依存するので、一定の光条件のもとでは窒素の量を増やしても成長が増加しないことになる。特に、植物工場では、光強度が太陽光に比べて弱いから、過剰な窒素は残留硝酸塩濃度を高くして、野菜の食味を下げる原因になる。一方で、太陽光下で栽培する場合には光強度が強いので、成長に必要な窒素量も多くなる。特に畑作では雨によって窒素(硝酸塩)は流れ出るので、窒素の施肥が野菜の成長に大きく影響することになる。そのため、畑作農家や野菜栽培の研究者が、野菜の成長は窒素で決まる、と考えるのは一理ある。

 おいしい野菜をつくるには、栽培する光強度に合わせて窒素を制限し、代わりにカリウムイオンや細胞分裂を促進するマグネシウムを多くした方が成長は速くなり、野菜の食味もよくなる。マグネシウムを多く施肥すると苦くなるのではないかと心配する人もいる(マグネシウムのことを農業の現場では苦土という)が、野菜のなかで味に影響するのは3,000 ppm 以上になった場合であって、マグネシウムは多く使用しても野菜の中では200 ppm を超えることはまずないから、マグネシウムの使用が野菜を苦くすることはない。マグネシウムは細胞分裂および代謝を活発にし、カリウムは浸透圧を上げて成長を支える、ことに留意すべきである。

 

5 e-スーパー健康野菜

 (株)エコタイプ次世代植物工場では、上記の点に留意して、残留硝酸塩の濃度を下げることに成功している。低い残留硝酸塩濃度、抗酸化成分が豊富、ビタミンが豊富、ミネラルが豊富、えぐ味がなく野菜本来の食味・風味のある野菜、完全無農薬栽培、付着細菌数の少なさ、などを特色とする野菜の栽培方法を確立し、その方式で生産した野菜を「e-スーパー健康野菜」と名付けている。従来、「健康野菜・けいはん菜」と呼んでいたものと同じであるが、品質をより明確に表す名称とした。